小玉は、今や古典的とも言える光と影を主題に作家としての活動を開始しました。光が影を、影が光をかたどる相補的な作用の中で、情熱を持って様々なバリエーションを生み出しています。ただ一方で、世界を総体として把握することの途方もなさに慄くこともあるというのです。自らの熱量を表現するためには、それを受け入れる形式/鋳型が必要なのではないか。小玉にとってそれが書物でした。
ある日、ふと思い立って本を被写体にしてみた。モノトーンであることも相まって抽象化された写真からは、本来の意味が徐々に失われ、代わりに別のなにかが浮かび上がってくるようだった。
書物のポートレートとも言える撮影手法から導出される数々のイメージからは撮影者の恣意的な配慮が極力排除され、見るものの想像力を掻き立てます。ただの紙の束が、ある人には流れ落ちる滝に、ある人にはスポットライトへ変貌します。認識のプラットフォームを耕し、新たな概念が育つ母型として写真が機能する瞬間をこそ、小玉は何よりも待ち望んでいるのです。
よく見知った、馴染み深いものを手繰るときであっても、写真は、未成の概念を一瞬にして描きだすことがある。それは新たな空間や想像力の母型として機能するのだ。あたかも光と影が共鳴し、互いを生み出すかのように。
そして小玉はこの度、それらの作品を写真集という形式へとりまとめました。書物をモノクロの光と影に抽象化し、変容したイメージを組み合わせ、さらに再び書物へ還元し、我々がそれを紐解く。ことここに至ると、もはや写し取られたものが何であったかという事象の再現性についての議論は背景化し、それに呼応して現実と想像の世界を往還する一連の運動が浮かび上がります。そしてその中にこそ、写真をめぐる本質が存在するのではないでしょうか。小玉はその一翼を担うオルガナイザーなのかも知れません。
私は、被写体が何かというよりも、写真となった被写体がどのように知覚されるかに関心を持っており、そこに自由を見ている。
ぜひ本書を手に取り、この認識を巡る活動にご参加下さい。
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著者: 小玉 真由美
編集: 森下 大輔
デザイン: 小玉 千陽
翻訳: 中田 馨
ページ数: 96
掲載作品数: モノクロ44点
製本: 並製本+カバー
初版: 2024年12月2日 300部
ISBN 978-4-9909567-9-0
価格: ¥5000+税