中村は初期の作品から、主に光や水といった揺れ動く被写体をモチーフに、自らの身体感覚、色彩感覚を通じて世界を表現し続けています。また動画作品の発表や、オルタナティブスペース[1号室|2号室]の運営など、既存の写真家の枠にとどまらない活動を展開しており、美術館での展示にも意欲的に参加するなど、今後の更なる活躍が期待される作家です。近年では自身の出産を機に、家族や子供との日常というごく身近な出来事から、時の流れや生命の感触を掬い取ろうとする試みを十年以上に渡って継続し、それが本作にまとめられました。
この写真は、初めての妊娠、子の誕生、その成長の嬉しさと不安、
初めて心許した動物、2匹の猫との別れ、日々の光景、
わたし自身も常に揺れているこころや体の中から出て来た色やかたちです。
「あわい」や「ゆらぎ」といった運動性に主眼を置いた中村の作品群はハイコントラストで色温度が高く時に不明瞭であり、自身の子や夫、二匹の猫といった親密な空間を対象にしながらもどこか抽象的な気配を纏っています。そして更に作家は、家族への想い、子への祝福を自作に織り込むと同時に、これらの作品がこれから訪れる全ての子供達をも祝福するものであってほしいと語ります。
不安な世の中だからこそ、希望が見たい。日々が、子供らの未来がなんとか続いていって欲しい。そんな私自身の想い、祈りのようなものが強いコントラストとなって現れています。物心ついてきた子が何かを見て、感じ、進んでゆく。その方向は光あるものであって欲しい。
わたしや家族もその流れにまた身を任せて行くのでしょう。
太古から続いてきたであろうこの想いや時の中で。
この鈍い光沢を放つ金色の写真集を手に取ると、表紙にはその人の姿が朧げに現れ、反射した光がその顔を明るく照らします。まるで小さな祝祭のように。ぜひ本書を手に取り、光と共に進む日々の確かさと、その向こうに微かに現れる新しい時間の兆しを感じ取ってください。
—
著者: 中村 綾緒
編集: 森下 大輔
デザイン: 中村 綾緒
デザイン監修: 庄司 誠
サイズ: 257×364mm
ページ数: 64P
掲載作品数: カラー50点
製本: 上製本
初版: 2025年9月14日 200部
ISBN 978-4-9914195-1-5
定価: ¥8000+税