O

O:精神的/身体的、言語的/非言語的いずれの領野を問わず、「誰もそれについて何も知ることのできない」根本的事実を示す概念として、精神分析家のウィルフレッド・R・ビオンが提唱した記号。

林は、写真というメディアを用いながら世界の原質と交わる行為を目指し、制作活動 を続けています。抽象画や詩作など、未明の概念と通じるのに適した方法をあえて選 ばず、目前にある事物の複写を旨とする写真とともにそのような作業を行うことは非 常に不自由であるように思われますが、林にとってはその不自由さこそが重要なので す。 本作では、ガラスや水に反射して滲んだ景色、完全にアウトフォーカスで光の模様と 化したモノ、暗闇に深く溶け込みもはや判別しがたい事象など、捉えどころがなく、 用途の不明なカットが並びます。それらは既存の意味から離れ、どこか浮遊感を感じ させます。 しかしこの写真集を何度も手繰っているうちに、見るものはそこに林が「確かな不確 かさ」と表現する強固な意志を見出すことでしょう。林は写真を通じて現実の認識方 法を揺り動かし、拡張し、再定義しようとしているのです。 

事物と観想の端境に立ち尽くすことでしか垣間見ることができない景色があるとすれば、
それは一体どんなものだろう。

 

著者: 林佑紀
編集: 森下大輔
デザイン: 庄司 誠(ebitai design)
翻訳: 吉川 由貴
サイズ: 225×281mm
ページ数: 64
掲載作品数: カラー30点
製本: 並製本+ケース
価格: ¥4800
初版: 2024年9月28日 200部
ISBN 978-4-9909567-8-3 

Leave a Comment